果樹栽培の専門家や各地の農業指導センターが口を揃えて指摘するのが、「ジベレリンを浸す作業以前の下準備で、収穫時の美しさと味がほぼ確定する」という構造的真実です。ただ薬品に浸せば良いわけではありません。房作りと摘粒という緻密な彫刻作業を経て初めて、理想のぶどうが完成します。
作業は大きく分けて3つのフェーズで進行します。
ステップ1:開花直前の「房作り(花穂整形)」
ぶどうの花穂は放っておくと十数センチもの長さに伸び、数百個もの蕾をつけます。このままジベレリン処理を行っても養分が分散し、貧弱でスカスカな房にしかなりません。開花数日前に、花穂の上部や中間の支軸をすべて指先でしごき落とし、最先端部の3〜4cm(デラウェアなら約3cm、巨峰やシャインマスカットなら3.5〜4cm)のみを残すという大胆な切り詰めを行います。この段階で蕾の数を数十個程度に限定することが、後の大粒化に向けた不可欠な布石となります。
ステップ2:薬液カップへの浸漬(カップ法)
ジベレリン処理は霧吹きによる散布ではなく、計量カップや専用の浸漬容器に希釈液を満たし、房ごと1房ずつ底からドブ漬けにする「浸漬処理」が基本です。浸す時間は2〜3秒間で十分ですが、房全体に気泡がつかないよう軽く揺すり、引き上げた後は余分な薬液を軽く振って切ります。
この際、プロの現場で欠かせない工夫が「食紅(食用色素)」の添加です。希釈液に極めて微量の赤色食紅を混ぜておくことで、処理済みの房がひと目で判別可能になり、重複処理による薬害や、未処理による種の残留を完全に防止できます。
ステップ3:落花後の「摘粒(てきりゅう)」
第2回処理の前後に、受精・肥大し始めた粒の間引きを行います。シャインマスカットであれば1房あたり30〜35粒前後、巨峰であれば35〜40粒を目安に、内側に向かって伸びている粒やすき間を圧迫している小粒を先の細いハサミで間引きます。隙間を空けておかなければ、肥大期に粒同士が押し合って破裂する「裂果」を引き起こし、カビ病の温床となってしまいます。