「乾燥を好むサボテンに水をあげすぎると根腐れする」というのは、土植え栽培における動かしがたい常識です。それにもかかわらず、透明なガラス瓶の水中で生き生きと白い根を伸ばすサボテンが存在するのはなぜなのでしょうか。植物生理学の知見と園芸農家への取材から導き出された結論は、サボテンが持つ根の構造的リセット能力にありました。
土の中で育ったサボテンの根(土壌根)は、乾燥から身を守るために外皮が硬く木質化しており、土の隙間に存在する空気中の酸素を取り込んで呼吸しています。この土壌根をそのまま水中に沈めると、細胞が水圧と密閉環境によって呼吸困難に陥り、わずか数日で窒息死してしまいます。園芸初心者が「土を洗い流してそのまま水につける」という手順を踏んだ際に起きるサボテン水耕栽培の根腐れ理由は、まさにこの窒息死した古い根が腐敗菌の温床になることに起因しています。
一方、水耕栽培に成功している株が生やしているのは、土壌根とは細胞構造が根本から異なる「水生根」です。水生根は水中に溶け込んでいる微量な溶存酸素を直接吸収できるよう、表面積が広く組織が柔軟にできています。つまり、水耕栽培とは単にサボテンを水に漬けることではなく、人為的に土用の根から水用の根へと器官を切り替えさせる適応プロセスに他なりません。
植物ホルモンが分泌され、新しい水生根が展開し始めると、サボテンは水中にありながら完全に呼吸バランスを確立します。「水が苦手」とされていたサボテンの真実は、「水そのものが嫌い」なのではなく、「水浸しによる土中の酸欠と嫌気性細菌の増殖」に耐えられなかっただけなのです。