池田屋河鹿園の名を全国に知らしめたもう一つの大きな要素が、文学と映画の歴史だ。昭和の作家・藤原審爾が執筆した小説『秋津温泉』は、この奥津温泉を舞台に着想された名作である。後に映画『秋津温泉』として銀幕を彩り、悲しくも美しい男女の愛の物語は多くの人々の涙を誘った。
宿の周辺や館内には、作品の面影が今も随所に残されている。作中に描かれたしっとりとした情景や、昭和のノスタルジーを感じさせる空気感は、映画ファンや文学好きにとって堪らない魅力だ。物語の背景にある歴史を知りながら歩く温泉街は、旅の深みをより一層増してくれる。