『ふたりの大阪』の完成度の高さは、昭和歌謡界を牽引した作詞家・吉岡治と作曲家・市川昭介の卓越した職人技によってもたらされました。このコンビは後に数々の金字塔を打ち立てることになりますが、本作におけるアプローチは極めて緻密です。
歌詞の冒頭、「頬よせあって あなたと踊る 別れに似合いの 新地のクラブ」というフレーズだけで、夜の大阪・北新地の情景と、許されぬ恋や避けられない別れを背負った男女のドラマが一瞬で立ち上がります。吉岡治の筆致は、堂島、御堂筋、戎橋といった大阪の象徴的な地名を散りばめながらも、感傷に溺れすぎない都会的なダンディズムと女性の健気さを描き出しました。
作曲を手掛けた市川昭介は、演歌特有の重厚なコブシ回しを控えめにし、ゆったりとした4分の4拍子のリズムに乗せて、自然と口ずさみたくなる流麗な旋律を構築しました。当時の制作エピソードによると、「誰もがスナックで無理なくデュエットでき、お互いの声が心地よく溶け合うキーと音階」を徹底的に研究して生み出されたと伝えられています。この計算された親しみやすさこそが、誕生から半世紀近く経っても色褪せない秘訣です。