フッ酸が「極めて危険な毒物」と恐れられる理由は、酸による表面の化学熱傷にとどまらず、体内に浸透して全身毒性を発揮する点にあります。
皮膚に付着した場合、低濃度であっても数時間後に骨に達するような激痛が生じ、組織が壊死します。高濃度のフッ酸を誤飲・吸入した場合は、食道や胃の粘膜が即座にただれ、血液中のカルシウムが一瞬で奪われて心停止へと直結します。八王子での事故でも、女児は塗布直後から血圧低下と不整脈を起こし、急速に心肺停止状態へと陥りました。
工業現場や医療現場で万が一フッ酸が付着・誤飲した場合の応急処置としては、直ちに大量の流水で洗浄しつつ、カルシウムを補給してフッ素イオンを無毒化(不溶化)する「グルコン酸カルシウム」の塗布・静脈投与が唯一の特効薬とされています。経口摂取の場合は、胃洗浄とともに大量の牛乳やカルシウム製剤を飲ませて吸収を遅らせる処置が緊急措置として求められます。