福岡地方裁判所で言い渡された原判決が「司法の歴史を変えた」と評される最大の理由は、直接的な実行指示の証拠がないまま、トップの刑事責任を認めた点にある。工藤会の最高幹部である総裁・野村悟被告と、会長・田上不美夫被告の二頭体制の下、組織がどれほど強固な服従関係で縛られていたかが徹底的に審理された。
一審判決は、暴力団組織の「無口の壁」を打ち破るべく、間接証拠の高度な集積によって「トップの指示があったと考えるのが合理的である」と判示。この画期的な論理展開は、司法・刑事法学界に巨大な地殻変動を引き起こした。証拠に基づかない懲罰の拡大を懸念する慎重派と、組織犯罪の特殊性に鑑みて推認の適用を肯定する推進派との間で、法解釈の根底を揺るがす論争が巻き起こったのである。