本場メキシコ料理の根幹を支えるトルティーヤには、数千年に及ぶ先住民の知恵が息づいている。乾燥トウモロコシを石灰水などのアルカリ水溶液で煮て一晩寝かせる「ニシュタマリゼーション」と呼ばれる伝統技法だ。この工程を経ることで、トウモロコシの硬い皮が剥けやすくなり、必須アミノ酸やナイアシンといった栄養素が体内に吸収されやすくなる。
こうして処理されたトウモロコシを石臼で挽き、水分を加えて滑らかな生地に仕上げたものをマサと呼ぶ。マサを熱い鉄板(コマル)に載せると、トウモロコシ特有の香ばしい蒸気が立ち上り、ふっくらと膨らむ。ユネスコが無形文化遺産に登録した伝統的メキシコ料理の神髄は、まさにこのマサから生まれる焼きたてトルティーヤの豊かな風味にある。