なぜここまで「葛西臨海公園=壊滅的水害」というイメージが定着してしまったのでしょうか。その背景には、かつて江戸川区が発行して全国的な波紋を呼んだ水害ハザードマップの衝撃的な表紙コピー、「ここにいてはダメです」の強烈なインパクトが存在します。
報道関係者や防災専門家の間でも指摘されている通り、この警告は津波に対するものではなく、大型台風による高潮や荒川・江戸川の決壊(洪水)を対象にしたものです。高潮や大河川の氾濫が発生した場合、海抜ゼロメートル地帯が広がる江東5区(墨田・江東・足立・葛飾・江戸川)では、水が何日も引かず広範囲が数メートルにわたって水没します。そのため区は「区内にとどまらず、台東区や文京区などの高台へ広域避難せよ」という強いメッセージとしてあのフレーズを打ち出したのです。
この警告の強烈さゆえに、一般の人々の記憶の中で「高潮・洪水」と「津波」のリスクが完全に混同されてしまいました。葛西臨海公園の高潮想定においては、超巨大台風直撃時に数十時間規模の冠水リスクが指摘されていますが、突発的に襲来する津波とは発生メカニズムも避難行動も根本的に異なります。この2つの災害をごちゃ混ぜにして語ることが、不必要なパニックや逆に危機意識の麻痺を引き起こす元凶となっています。