1985年の田中事務所退職後、早坂茂三が執筆した自著『オヤジとわたし』(集英社文庫)をはじめとする一連の著作群は、単なる暴露本ではなく、権力者の孤独と人間ドラマを描いた第一級の政治ドキュメントとして空前のベストセラーとなりました。
自著の中で早坂が明かした「人間・角栄」の姿は、驚くほど情に厚く、同時に冷徹な現実主義者でした。早坂が記録した数々のエピソードと金言は、現代のリーダーシップ論や人間関係論としても色褪せていません。
「人間は不完全な生き物だ。義理と人情、恥と見栄で動く」「約束は絶対に守れ。できない約束は最初からするな」「相手の弱みを握っても、逃げ道を必ず作っておけ」。早坂の著書を通じて世に出たこれらの言葉は、泥臭い昭和政界のリアリズムそのものでした。手記の中で早坂は、田中角栄を「オヤジ」と呼び続け、全身全霊で仕えながらも、巨大すぎる権力に呑み込まれていく怪物の悲哀を客観的な観察眼で記録しています。