布施明の『マイ・ウェイ』に触れた人々が異口同音に口にするのは、「歌声に身体ごと包み込まれるような衝撃」です。その感動の根底には、天賦の才に甘んじることなく磨き抜かれた声楽的な技術基盤と、人生の光と影を余すところなく投影する劇的な表現力が存在します。
声楽の観点から分析すると、布施明の発声はイタリア古典歌曲やオペラで培われる「ベルカント唱法」の身体の使い方を色濃く受け継いでいます。喉を締め付けず、軟口蓋を高く保ちながら共鳴腔を最大限に響かせるため、ささやくようなピアニッシモからホール全体を震わせるフォルティッシモまで、音色と音程が一切崩れません。特に終盤のクライマックスで見せるロングトーンは、音圧を保ったまま豊かなヴィブラートへと接続され、聴き手の胸にダイレクトな波動となって届きます。
加えて、言葉の一文字一文字に対するディクション(発音・滑舌)の明瞭さも特筆すべき点です。日本語の母音を深く響かせながら、子音のアタックを鋭くコントロールすることで、歌詞の物語がまるで一本の長編映画のように脳裏に立ち上がります。ただ巧みなだけでなく、自らの人生の歩みをそのままぶつけるような人間味あふれる誠実さが、理屈を超えた涙を誘うのです。