ネット検索エンジンでは、「上杉昇 声帯 手術」「上杉昇 死亡説 真相」といった極端なキーワードが今なお散見されます。こうした根拠のない流言飛語がなぜ定着してしまったのか、丹念に検証すると3つの情報錯綜が浮かび上がります。
第1に、声質の劇的な変化に対する憶測です。90年代当時の上杉昇は、伸びやかなハイトーンを武器にしていました。しかし、al.ni.co以降、彼は喉を絞るような強烈な歪み(ディストーションボイス)やデスボイスに近いグランジ唱法を多用するようになります。この歌唱スタイルの激変と、年齢を重ねたことによる声域の重心の低下を聴いた一部のライト層が、「喉を酷使して潰したのではないか」「ポリープなどの声帯手術を受けた結果、声が変わってしまったのではないか」と推測を立て、それが事実であるかのように独り歩きしました。公式な記録や本人のインタビューにおいて、声帯の手術を行ったという事実は報告されていません。
第2に、地上波テレビ番組からの長期的な撤退です。1996年のWANDS脱退後、上杉昇はシングルチャートを競うメジャーシーンの中心から距離を置き、自らのレーベルやインディペンデントなライブ活動へと主戦場を移しました。地上波で彼の姿を見かけなくなった長年のブランク期間に、「見かけない=引退した、あるいは重病で亡くなったのではないか」という安易な死亡説がネット掲示板などで生成された経緯があります。
第3に、音楽関係者の訃報との混同です。90年代のビーイング系アーティスト周辺では、ZARDの坂井泉水をはじめ、惜しまれつつこの世を去った才能が複数存在します。そうした悲劇的なニュースの記憶が、同時代を駆け抜けたWANDSの元ボーカルという記号と曖昧に混ざり合い、根も葉もない「死亡説」の火種となったのが真相です。