そもそも、この単位がいくつを指すのかを即答できる人は少ない。一般には「10の68乗」として知られているが、学術書や古い文献をめくると「10の88乗」という数字も平然と顔を出す。この20桁もの途方もない誤差は、江戸時代の出版文化が引き起こした混乱の名残だ。
発端は1627年、和算家・吉田光由が著した大ベストセラー『塵劫記(じんこうき)』にある。初版において、吉田は数詞が万倍ごとに進む「中数(ちゅうすう)」ルールを採用した。ところが、寛永8年の改訂版を出す際、なぜか中国の古典『算学啓蒙』の記述を引き継ぐ過程で位取りの対応を誤り、下位の単位との接続を狂わせてしまったのだ。結果として、無量大数は「10の68乗(不可思議の1万倍)」とする説と、「10の88乗」とする説が併存することになった。
現在、日本の主要な辞書や教育現場では概ね10の68乗で統一されている。だが、国家プロジェクトレベルの巨大単位でありながら、根本の定義に数百年の迷走を抱え続けているという事実そのものが、この数の人間離れしたスケール感を雄弁に物語っている。