高橋元太郎の俳優人生を語る上で、TBS系ナショナル劇場『水戸黄門』のうっかり八兵衛役を外すことはできません。1970年放送の第2部からレギュラーに抜擢され、2000年の第28部をもって勇退するまで、約30年間にわたり演じ続けた通算出演話数は実に751話に達します。この数字は歴代のレギュラー出演者の中でもトップクラスの金字塔です。
当時の制作関係者の回想録や特別インタビューによると、うっかり八兵衛というキャラクターは、当初は旅の道中で状況を視聴者に分かりやすく伝える単なる狂言回しとしての役割が想定されていました。しかし、高橋元太郎が持ち前のコミカルな身体表現と絶妙なセリフの間合い、そして「お茶目な庶民」としての愛嬌を吹き込んだことで、光圀公、助さん、格さんに並ぶ絶対的な存在へと進化していきました。「八兵衛がうっかり敵の罠に引っかかる」「八兵衛が名物の団子を食べたがる」といったお約束の展開は、緊張感のある道中劇に極上の安心感とユーモアをもたらす、番組に不可欠のエンジンとなったのです。
2000年の第28部最終回をもって高橋がレギュラーを卒業した際、当時の制作陣や視聴者の間には巨大な喪失感が広がりました。その後、番組では新たな旅の仲間や、林家三平が演じる「ちゃっかり八兵衛」などの後継キャラクターが登場しましたが、高橋元太郎が築き上げた「うっかり八兵衛」の存在感と国民的浸透度は、現在に至るまで他の追随を許していません。