天才を狂わせる数学の未解決問題|1億円の懸賞金とAbc予想の真相

天才を狂わせる数学の未解決問題|1億円の懸賞金とAbc予想の真相

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ミレニアム懸賞問題の中で唯一の解決例となったのが、2000年代初頭のポアンカレ予想です。「宇宙の形は概ね丸いのか」をトポロジー(位相幾何学)の観点から問うたこの世紀の難問を打ち破ったのは、ロシアの数学者グレゴリー・ペレルマンでした。しかし、この偉業に伴うドラマは、学術界の暗部と天才の精神的限界を白日の下に晒すことになります。

当時、アメリカのリチャード・ハミルトンが考案した「リッチフロー」という幾何学的熱方程式の手法を極限まで進化させ、特異点を手術(サージェリー)しながら解消していく驚嘆の論理を、ペレルマンは専門誌ではなくインターネットのプレプリントサーバー「arXiv(アーカイブ)」に3本の論文として投下しました。世界中の幾何学者が3年がかりで精査し、完全な証明であることが確認されました。

しかし、ペレルマンは2006年の数学界最高の名誉である「フィールズ賞」の受賞を拒否。さらに2010年、クレイ数学研究所が正式に授与を決定したミレニアム賞の賞金100万ドル(約1億円)をも完全に辞退したのです。当時、サンクトペテルブルクの団地で母親の年金を頼りに極貧の隠遁生活を送っていた彼が口にした言葉は、当時の取材陣や手記を通じて世界に強い衝撃を与えました。

「私はお金にも名声にも興味がない。動物園のパンダのように見せ物にされたくない」「学界の倫理的基準に失望した。ハミルトンの功績が正当に評価されていない中で、私一人だけが賞を受け取ることは不正義だ」

このポアンカレ予想ペレルマン辞退の真相は、論文を巡って先取権を主張しようとした一部の有力研究者たちの政治的駆け引きに対する痛烈な抗議でもありました。現在、数学の未解決問題に対するネットの反応をSNSや5ちゃんねる(旧2ch)の数学板等で追うと、ペレルマンの崇高なまでの隠遁生活を「真の賢者」と称賛する声が絶えない一方で、「知性を極めた人間が最終的に人間社会を拒絶してしまうプロセスが恐ろしい」といった慄然としたコメントが交わされています。

またネット上では、大学教授や研究所に「私はリーマン予想(またはフェルマーの最終定理)を3ページで解いた」と自称するアマチュアからの手紙が定期的に届く現象、いわゆる「トンデモ証明(Cranks)」問題も度々話題になります。初等的な誤りを指摘されても逆上し、陰謀論に傾倒していく彼らの心理は、未解決問題が持つ強烈な「知の魔力」が一般人の認知をも歪めてしまう危険性を物語っています。

清水 千尋
著者

清水 千尋

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。