アガサ・クリスティの動向を語る上で欠かせないのが、映画『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』での暗躍です。この劇場版において、彼女の声を担当した声優は名実ともにトップ声優である坂本真綾でした。
坂本真綾が吹き込んだアガサの声は、気品に満ちたロイヤルイングリッシュを思わせる柔らかな語り口でありながら、その奥底に絶対的な冷酷さを宿した見事な芝居でした。澁澤龍彦が引き起こした「異能霧」によってヨコハマが孤立し、異能特異点による世界崩壊の危機が迫った際、内務省異能特務課に対して放った言葉は観客を震撼させました。
「ヨコハマを焼夷攻撃で消滅させる」という非情な通告を、ティーカップを傾けながら優美に言い渡すシークエンスは、彼女が背負う英国という大国のエゴイズムと覚悟を如実に示していました。結果として中原中也の「汚濁」解放と太宰治らの活躍によって爆撃は寸前で回避されましたが、彼女がいつでもヨコハマを一掃できる軍事行使権を持っている事実を全世界に見せつけた名シーンとなりました。