『時をかける少女』というタイトルを共有しながらも、1965年に発表された筒井康隆氏の原作小説と細田守監督のアニメ版では、ストーリーの骨格や読後感に大きな隔たりがあります。
筒井氏の原作における主人公は芳山和子。中学3年生の和子は、理科実験室でラベンダーの香りを嗅いだことをきっかけに、時間を跳躍する「時間跳躍能力(タイムリープ)」に目覚めます。そこに現れる未来人は「深町一夫」と名乗る少年(正体は西暦2660年の薬学研究者・ケン・ソゴル)です。原作の結末において、未来へ帰る深町は和子や周囲の人々から自分に関する記憶を完全に消去します。和子は深町の顔も名前も忘れ去りながらも、「いつか自分の前に現れるかもしれない誰か」を待ち続けるという、哀愁漂う心理サスペンスとして幕を閉じます。
一方、細田守監督のアニメ版は原作の直接のリメイクではなく、原作から約30年後を描いた実質的な続編です。主人公の紺野真琴は芳山和子の姪という設定であり、劇中に登場する和子はかつて深町との恋と記憶喪失を経験した当事者として真琴を見守り、助言を与える立場になっています。
記憶を奪われて終わる原作に対し、アニメ版は「記憶を抱きしめたまま未来へ向かって走り出す」という能動的な青春物語へと再解釈されました。原作者の筒井康隆氏もアニメ版の完成度を絶賛しており、SF的なギミックを巧みに継承しながら、21世紀の若者に向けた爽快な人間ドラマへと昇華させた細田監督の手腕が光ります。