船場吉兆の事件の真相を探る上で見落とせないのは、メディアの狂騒と厨房現場の乖離です。
会見直後のインターネット掲示板やバラエティ番組では、「ささやき女将」のモノマネやパロディ動画が無数に作られ、一種のエンタメとして消費されました。しかし、一歩現場に足を踏み入れれば、そこには過酷な現実が広がっていました。
元従業員の証言によると、船場吉兆の厨房では「吉兆の名を冠している以上、原価率を下げて利益を出さねばならない」というプレッシャーが異常なほど高まっていたといいます。高級食材を大量に仕入れながらも、売れ残りを廃棄することを極度に嫌う「もったいない」という昭和的感覚が、いつしか法を犯す「使い回し」へとすり替わっていきました。
客単価3万円を超える料亭でありながら、利益追求を急ぐあまり現場に無理を強いる経営陣と、それに抗えなかった料理人たち。外食ジャーナリストは「吉兆というブランドの威光に経営者自身が押し潰され、実態が伴わないまま虚飾を重ねた結果の崩壊だった」と分析しています。