ネット上には「目視でタイヤの溝とウォッシャー液を確認すれば十分」「自分でボンネットを開けて点検すれば数万円浮く」といった、いわゆるユーザー点検を推奨する意見も見受けられます。
しかし、国土交通省令で定められた法定12ヶ月点検点検項目一覧(自家用乗用車・26項目)の全貌を検証すると、一般のドライバーが家庭用工具だけで完遂することは物理的に極めて困難であることが理解できます。
代表的な点検部位を抽出すると、以下のような専門設備と技術を要する項目が並びます。
- ブレーキ装置(6項目):ブレーキペダルの遊び、踏み込んだときの床板とのすき間、ブレーキの効き具合、ホース・パイプの漏れ・損傷・取付状態、マスターシリンダー・ホイールシリンダー・ディスクキャリパーの液漏れ、パッド・ライニングの摩耗。
- ステアリング装置(4項目):ハンドルの操作具合、ロッド・アーム類の緩み・損傷、ボールジョイントのダストブーツの亀裂・損傷、ギヤボックスの取付緩み。
- 動力伝達装置(4項目):プロペラシャフト・ドライブシャフトの連結部の緩み、ドライブシャフトブーツの亀裂・損傷、トランスミッション・トランスファーの油漏れ・油量。
- 下回り・サスペンション(5項目):サスペンションアーム等の緩み・がた・損傷、ショックアブソーバーの油漏れ・損傷、排気管・マフラーの取付緩み・損傷・遮熱板の緩み。
- エンジン・点火系(7項目):排気ガスの状態(CO/HC濃度)、エアクリーナーエレメントの状態、ファンベルトの緩み・損傷、冷却水漏れ等。
特にブレーキのキャリパー内部やディスクパッドの正確な残量計測、ドライブシャフトのゴムブーツの亀裂確認などは、車両をリフトアップしてタイヤを外さなければ正確な診断が下せません。ブーツ類が破れてグリスが飛び散っている状態を放置すれば、異物混入によりベアリングが破損し、最終的には車軸そのものの交換で数十万円の追加出費に直結します。
法定12ヶ月点検にかかる1万円〜2万円の費用は、単なる「点検代」ではなく、車両の致命的な故障を未然に防ぎ、将来発生する可能性のある莫大な修理代金をヘッジするための「予防保険」としての性格を強く帯びています。