プロジェクトの根底に流れているのは、建築界の巨匠アルド・ロッシが遺した不朽の造形美だ。福岡の地に誕生し、窓のないファサードと圧倒的な存在感で世界中を震撼させたホテル・イル・パラッツォ。その建築的哲学が、物語の舞台装置として極めて重要な意味を持っている。
都市の記憶を建築に封じ込めたロッシの思想は、今回の作品において単なる背景美術にとどまらない。冷徹な幾何学模様と赤い砂岩の質感が醸し出す異様な静寂は、登場人物たちの精神をじわじわと追い詰める触媒として機能する。建造物そのものがひとつの意思を持って呼吸しているかのような錯覚。名建築の血統を受け継ぐ空間設定が、観る者に強烈なプレッシャーを与える。