なぜ池田勇人はこれほどまでに冷徹な市場論理を突っぱねるように語らざるを得なかったのか。背景には、GHQの経済顧問ジョゼフ・ドッジが突きつけた「ドッジ・ライン」という厳格な超緊縮財政方針があった。当時の日本は、終戦直後の猛烈なハイパーインフレに苛まれており、政府補助金によって米価を人工的に低く抑える政策は国家財政を破綻寸前に追い込んでいた。
大蔵省の財政官僚たちは、闇市を駆逐し、通貨価値を安定させるためには、価格統制の解除と自由市場の導入が不可欠だと確信していた。池田の答弁は、感情論を排して財政規律を取り戻そうとする焦りの裏返しでもあった。しかし、理屈が正しければ政治として正しいとは限らない。政策の論理性と大衆感情の乖離が、大失敗の火種となったのである。