本作で監督・脚本・主演を務めたロベルト・ベニーニは、完全なフィクションとしてこの物語を紡ぎ出したわけではありません。その根底には、監督自身の血肉となった生々しい家族史と、歴史の証人たちの記憶が息づいています。
ベニーニの父ルイージ・ベニーニは、第二次世界大戦中にドイツ軍に捕らえられ、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で2年間の過酷な強制労働を生き延びた人物でした。帰国後、ルイージは幼い子どもたちにトラウマを与えないよう、自らの収容所体験をどこかユーモラスでおかしな話として語り聞かせたといいます。父が語ったその語り口こそが、本作のプロットの原点となりました。
さらに、アウシュヴィッツ強制収容所を生き延び、自らの過酷な体験を手記『In the End, I Beat Hitler(最後に私はヒトラーに勝った)』として出版したルビーノ・ロメオ・サルモーニの回顧録も、物語の構築に大きな影響を与えています。地獄のような悲劇を「勝敗のあるゲーム」として乗り越えようとした人間の精神の強さは、歴史の現実から抽出された確かな真実でした。