「美大に行きたいが、高校生から実技対策を始めても間に合わない」「美術予備校に通う学費の余裕がない」という受験生にとって最大の関心事が、国公立美大実技なしで受験できるルートの存在です。東京藝術大学を筆頭とする伝統校では卓越した描写力が課される一方、全国の公立大学や地方国立大学では、学科試験や小論文、志願理由書のみで合否を判定する選抜方式が実際に導入されています。
具体例として知られるのが、富山大学芸術文化学部の一般選抜(論述重視方式)や、尾道市立大学芸術文化学部の美工学科における一部入試方式です。これらはデッサン等の造形実技を課さず、大学入学共通テストの成績と小論文、面接等で選抜を行います。また、秋田公立美術大学の後期日程や、長岡造形大学の一般選抜においても、実技の代わりに小論文や特定科目を選択できる枠組みが整備されています。筑波大学芸術専門学群でも、総合型選抜や一部専攻で実技以外の論述・口頭試問型ルートが選択肢として存在します。
大学側が実技試験なし枠を設ける背景には、少子化対策だけでなく、近年のデザイン領域における地殻変動があります。現代のデザインは「美麗な絵を描く技術」以上に、論理的思考力、地域課題の発見力、文脈を言語化する企画・構想力が不可欠となっています。そのため、普通科進学校で培われた高い教養や言語能力を持つ学生を積極的に獲得しようとする明確な戦略が存在するのです。
しかし、取材現場からは厳しい警告も聞こえてきます。美術系専門予備校の指導者は次のように指摘します。
「実技なしで入学した学生の前に立ちはだかるのが、1年次の造形基礎講評です。周囲には何年も石膏デッサンを描き込んできた実技合格組が並びます。指導教員は『実技未経験だから』という甘えを一切許しません。基礎画力のギャップに強い劣等感を抱き、2年進級時に不登校や進路変更を選択してしまう学生が一定割合存在するのは隠れた現実です。」
実技なし枠は決して「楽をして受かる抜け道」ではなく、入学後に人の何倍もデッサンや立体造形を自学自習する覚悟を背負う選択肢であると認識しなければなりません。