本作「豊穣の女神篇」の核心であるシル・フローヴァの正体とは、美と愛を司る女神フレイヤその人が「一人の無力な町娘」としてオラリオで生きていた姿に他なりません。全知全能の魅了(チャーム)を持ち、神界にあっても全てを手に入れてきたフレイヤにとって、初めて自身の神威に屈せず、ありのままの心で接してくれた存在がベル・クラネルでした。
フレイヤが都市全体を巻き込む大規模な改ざんや戦争遊戯にまで踏み切った背景には、心理学で言う「絶対的孤独」と「共依存的な所有欲」の暴走が存在します。手記や神話伝承に照らし合わせても、フレイヤの行動原理は冷酷な支配欲ではなく、「本物の愛(伴侶)に触れたい」という根源的な渇望に起因しています。
しかし、ベルが求めたのは女神としてのフレイヤの庇護ではなく、酒場で微笑んでいた「シル」という一人の少女の笑顔でした。第11話において交錯する二人の視線は、神と眷族という絶対的境界線(バウンダリー)を越え、魂と魂が剥き出しで対峙する凄絶なドラマを創出しています。