暖簾をくぐると、店内には磯の爽やかな香りと出汁の香気が漂います。テーブル席と小上がり席を備えた飾らない大衆食堂の佇まいですが、運ばれてくる料理の完成度は極めて洗練されています。
真っ先に注文すべき看板メニューが「カンパチ漬け丼」です。丼を覆い尽くすように敷き詰められたカンパチの切り身は、角がピンと立ち、鮮やかな光沢を放っています。九州特有の甘みを湛えた特製醤油ダレにサッとくぐらせてあり、噛みしめるとコリコリとした力強い弾力と、上質なお茶育ち特有のサラリとした脂の甘みが口いっぱいに広がります。
中央の温泉卵を崩して絡めるとまろやかなコクが加わり、さらに添えられた急須の温かいお出汁を注ぎ入れることで、半生状態のカンパチが熱でキュッと締まり、極上の出汁茶漬けとして最後の一粒まで楽しめます。この三段階の味の変化こそが、中毒的なファンを生み出す仕掛けです。
一方、カンパチの魅力を余すところなく味わい尽くしたい層に選ばれているのが「海の桜勘定食」です。厚切りの刺身はもちろん、ふっくらと煮付けられた「カンパチのアラ煮」、サクサクの衣に包まれた「カンパチカツ(フライ)」、そして魚の旨味が溶け込んだ味噌汁(あら汁)までがセットになっており、まさにカンパチ尽くしのフルコースです。特にアラ煮は骨周りのゼラチン質と甘辛い煮汁が絶妙で、白米が進んで止まらなくなる逸品として高く評価されています。