書道指導者や教育心理学の専門家が指摘するように、人間は視覚的に「左右対称(シンメトリー)」な図形を認識した際、左右の要素を均等に処理しようとするゲシュタルト心理学的な群化の法則が働きます。鳥の両翼をかたどった「飛」は、左右に酷似した翼パーツを持つため、脳が無意識のうちに「左の羽を書き、次に右の羽を書き、最後に胴体を貫く」という直感的な作業手順を選択してしまうのです。
文字の歴史的成り立ち(字源)を紐解くと、古代の甲骨文字や篆書(てんしょ)において「飛」は鳥が空へ飛び立つ躍動的な姿を表現したものでした。行書や草書へと崩れていく過程で、運筆の滑らかさと毛筆のインクの流れを途切れさせないために、「左の羽から中央の背骨へ筆を運び、その勢いで右の羽へ展開し、最後に右下へ抜ける」という極めて合理的な手の動線が確立されました。
視覚的な見た目の左右対称性に引きずられると誤った筆順になり、手の運動力学(ムーヴメント)に従うと正しい筆順に帰着するというギャップこそが、教養ある大人すらも長年勘違いし続ける心理的トラップの正体です。