ひと口に「お金を借りたことを証明する書類」といっても、実務上は「借用書」「金銭消費貸借契約書」、そして公証役場で作成する「公正証書」の3種類が存在し、その法的効力と証拠力には決定的な格差が存在します。
「借用書」は、借主が貸主に対して一方的に差し入れる「念書」の形式を取るのが一般的です。これに対して「金銭消費貸借契約書」は、貸主と借主の双方が契約内容に合意した証として2通作成し、各自が1通ずつ保管する双務的な書類です。裁判になった際の証拠能力という点ではどちらも有効ですが、契約書形式の方が「貸主側も条件を了承していた」という相互合意の証明力が高くなります。
しかし、借用書や一般的な契約書がどれほど完璧に作られていても、借主が返済を踏み倒した際に「いきなり相手の銀行口座や給与を差し押さえる」ことは法的に不可能です。強制執行(差押え)を行うためには、裁判を起こして勝訴判決を得るか、民事調停を申し立てるなどして、裁判所から「債務名義」を取得しなければなりません。この裁判手続きには半年から1年以上の時間と、数十万円単位の着手金・弁護士費用が発生するため、貸した金額が50万〜100万円程度の場合、費用倒れに終わるリスクが極めて高くなります。
この致命的な弱点を一撃で解消するのが、公証役場で作成する「強制執行認諾約款付き公正証書」です。公証人が関与して作成された公正証書に「返済が滞った場合は直ちに強制執行を受けても異議はない」という文言(執行認諾約款)を入れておくことで、裁判を経ることなく即座に給与や預金口座の差押手続きに移行できます。
公証役場での公正証書作成手順
公正証書を作成する場合、貸主と借主の双方が公証役場に出頭するのが原則です。当事者の印鑑登録証明書(発行後3か月以内)と実印、契約条項の原案(借用書の下書き)、および公証人手数料を持参します。双方が平日に公証役場へ行く時間が取れない場合は、実印を押印した委任状と印鑑登録証明書を用意すれば代理人による手続きも可能です。公証人が作成した公正証書原本は公証役場に原則20年間保管されるため、紛失や改ざんのリスクが完全に排除される点も大きなメリットです。