解剖学テキストの上では明快に見える内転・外転ですが、臨床現場やトレーニング施設の実態を取材すると、驚くほど多くの誤認と代償動作が観察されます。
医療従事者の登竜門である理学療法士国家試験運動学の過去問分析においても、関節可動域の測定肢位や代償動作の判別は頻出中の頻出論点です。リハビリテーション専門学校の教員は次のように現場の苦悩を語ります。「学生が最も失点しやすいのは、股関節外転を測定する際に骨盤が横に傾いてしまう(側屈代償)ことを見落とす点です。代償動作を見抜けなければ、臨床で患者さんの真の筋力を評価できません」。
一方、一般のフィットネスジムに目を向けると、多くの初心者が内転外転筋トレマシン(アダクター/アブダクター)の使い方で混乱に陥っています。大手フィットネスクラブのチーフトレーナーはこう証言します。
「パッドを内側から外側へ押し広げるマシンが『アブダクター(外転マシン)』で、外側から内側へ力いっぱい挟み込むマシンが『アダクター(内転マシン)』です。しかし、ネーミングが似ているため、8割近くの方が『いま鍛えているのがお尻なのか内ももなのか』を意識しないまま惰性で動かしてしまっています。ターゲットを明確に意識しなければ、トレーニング効果は半減してしまいます」。
さらに、ランナーやヨガ愛好者の間で行われる大腿四頭筋内転筋ストレッチにおいても、骨盤が後傾したまま脚を無理に開こうとして股関節前面の詰まり(インピンジメント)を訴える利用者が目立ちます。可動性の確保には、形だけ真似るのではなく、どの軸で骨が回旋しているのかを把握する視点が欠かせません。