「スイッチを入れた瞬間、ズズズッと信じられない量の黄色い塊が吸い出され、目の奥の重みが一気に消えた」――。SNSや知恵袋などで語られるこの劇的な体験は、誇張やプラセボ効果ではありません。ただし、そこには人体の解剖学的構造に基づく明確なメカニズムが存在します。
まず誤解してはならないのは、鼻吸い器のノズルが副鼻腔(上顎洞や篩骨洞など)の内部に直接入るわけではないという点です。副鼻腔は鼻腔の周囲にある骨の空洞で、直径わずか数ミリメートルの「自然孔(しぜんこう)」と呼ばれる極小の換気口でのみ鼻腔とつながっています。副鼻腔炎の正体は、この自然孔が粘膜の腫れや粘り気のある鼻水によって塞がれ、空洞内に膿が密閉・貯留されて内圧が上昇した状態です。
大人が吸引圧の強い電動鼻水吸引器を正しく使用した場合、鼻腔深部にへばりついた粘稠な分泌物が強力な陰圧によって引き抜かれます。すると、蓋をされていた自然孔の開口部が一瞬にして解放されます。密閉空間だった副鼻腔と外気との圧力差が解消され、内部に溜まっていた膿が押し出されるようにして鼻腔へ流れ出し、ノズルへ一気に吸い込まれるのです。これがいわゆる「奥の膿がドバッと抜ける」現象の正体です。つまり、機械が副鼻腔を直接吸っているのではなく、自然孔の栓を抜くことで二次的な自己排膿(ドレナージ)を促しているのです。