劇場の1階および2階の左右壁沿いに設けられた特等席が「桟敷席(さじきせき)」です。歌舞伎の伝統様式を今に伝える特別な空間であり、一般席とは一線を画す風格を備えています。
常連客の間で新橋演舞場の桟敷席がおすすめされる理由は、他では味わえない圧倒的な特別感にあります。靴を脱いで上がる掘りごたつ式の座席には専用のテーブルが設置されており、幕間に名物のお弁当やお茶を優雅に楽しむことができます。前後左右の観客との距離が保たれているため、パーソナルスペースが極めて広く、長時間の観劇でも疲労を感じにくい点が大きな魅力です。
ただし、純粋な「見やすさ」を追求した場合には明確な死角が存在します。桟敷席は舞台に対して直角に近い角度で配置されているため、常に首を舞台方向へひねって観賞する姿勢になります。さらに、1階の東桟敷(舞台向かって右側)からは花道が遠く、西桟敷(舞台向かって左側)からは花道が近すぎるあまり、役者の背中を見送るアングルが増加します。「特別な日の記念」や「快適な居住性」を求めるには最高峰の座席ですが、舞台演出をシンメトリーに堪能したい方にはやや癖の強い席であることを認識しておく必要があります。