音楽プロデューサーや作編曲家たちを唸らせるのが、ボーカル兼キーボードの藤原聡が組み上げたコードプログレッション(コード進行)の緻密な仕掛けです。「115万キロのフィルム」というタイトルが象徴するように、楽曲全体が一本の長編映画のようなドラマチックな抑揚を持っています。
楽曲の核となるAメロでは、ベース音が動かずに上部構成音だけが滑らかに移ろっていく「ペダルノート(保続音)」が効果的に配置されています。これにより、日常の穏やかな会話シーンを想起させる淡々とした美しさが醸成されます。サビに突入すると一転、ブラックミュージックやソウルに根ざした「ドッペルドミナント(セカンダリードミナント)」が炸裂します。
例えば、Key: Cに置き換えたサビの展開において、通常のダイアトニックコードである「Dm7」に向かう直前に、「D7」または「A7」を差し込むことで一瞬の切ない緊張感(ドミナントモーション)が生まれます。藤原自身が過去の音楽メディアのインタビューで語っていた「聴き手が心地よいと感じるJ-POPのメロディの裏に、どれだけ豊潤なハーモニーを忍び込ませられるか」という哲学が、まさにこのサビ前の数小節に凝縮されています。