糖尿病が恐れられる最大の理由は、血管内皮を静かに傷つけ続け、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中、重症感染症といった致死的なイベントを引き起こす「サイレント・キラー(沈黙の暗殺者)」としての本質にある。昭和・平成の芸能史を振り返ると、この病気の合併症によって惜しまれつつ命を落としたスターたちの記録が刻まれている。
名優・タレントとして親しまれた渡辺徹さんは、その象徴的な事例として多くの人々の記憶に残る。若手時代からマヨネーズを愛用する過度な大食漢として知られ、30代で2型糖尿病を発症。その後、虚血性心疾患による冠動脈狭窄、急性心筋梗塞での緊急バイパス手術、そして慢性腎不全による週3回の人工透析導入と、教科書に記された糖尿病の進行プロセスを辿るかのように合併症と闘い続けた。妻である榊原郁恵の献身的な食事サポートを受けながら舞台に立ち続けたが、2022年11月、敗血症のため61歳の若さで急逝した。高血糖状態が続くと白血球の貪食能や免疫機能が著しく低下し、健常者なら軽症で済む細菌感染が全身に回りやすくなる。渡辺さんの急逝は、糖尿病が感染症の重症化を決定づける引き金になる事実を日本中に知らしめた。
プロレス界のスーパースター・アントニオ猪木さんもまた、現役時代から重度の糖尿病と闘い続けた一人だった。1980年代半ば、試合中に血糖値が急変する低血糖発作と戦いながら、インスリン注射を打ってリングに上がり続けたエピソードは伝説として語り継がれている。晩年は心アミロイドーシスなどの難病にも見舞われたが、自らの衰えゆく肉体をYouTubeで包み隠さず公開し、病と対峙する勇気を示し続けた。彼らが残した闘病の軌跡は、「早期に治療を継続していれば防げたかもしれない」という痛切な教訓を現代の私たちに突きつけている。