金沢市は、全国でも有数の「おでん消費都市」として知られる。雪深く厳しい冬を乗り切るための温かい鍋料理という側面に加え、背景にあるのは加賀藩前田家が育んだ加賀料理の美学だ。茶の湯文化と結びついた「おもてなし」の心は、大衆の日常食であるおでんの仕込みにまで息づいている。
金沢のおでん出汁は、関東風の黒い煮込み出汁とも、関西風のストレートな昆布出汁とも異なる。大野醤油の淡口をベースに、煮干し、昆布、削り節を贅沢に使い、具材それぞれの持ち味を邪魔しないギリギリの透明度を保つ。鍋の中で雑多に煮崩れることは決してない。食材ごとに煮え時間を緻密に計算し、別鍋で下ごしらえを済ませてから合わせる職人技こそが、澄み切った味わいを維持する生命線だ。