和彫りの伝統図柄としての般若は、相反するふたつの強烈な意味合いを内包しています。その第一は「女性の激しい情念、嫉妬、執着」です。愛する相手への裏切りに対する憤怒や、叶わぬ恋の苦しみが極限に達したとき、人間は鬼へと堕ちていく。刺青として身に刻む場合、単に恐ろしさを誇示するだけでなく、「自分自身の内面にある抑えきれない怒りや未熟さへの自戒」として彫り込むケースが少なくありません。
第二の側面は、逆説的な「魔除け・厄除け・守護」の力です。日本古来の信仰には、鬼のような強大な力や恐ろしい形相をもって外敵や悪霊を威嚇し、災厄を退ける「破邪(はじゃ)」の思想があります。寺院の山門に立つ仁王像や屋根に据えられる鬼瓦と同様に、自らの身体に最も恐ろしい存在を宿すことで、あらゆる不運や悪縁を跳ね返すという祈願が込められているのです。