銀座木村屋總本店が創業から150年以上の時を経てもなお特別な存在であり続ける最大の理由は、日本独自のパン製法である「酒種(さかだね)生地」にあります。明治初期、当時の日本人にとって西洋から渡来したパンは酵母の酸味が強く、馴染みにくいものでした。そこで創業者の木村安兵衛と息子の英三郎は、和菓子の酒饅頭から着想を得て、米と米麹、水から起こす伝統的な発酵種を開発しました。
社史や当時の記録によると、1875年(明治8年)4月4日、向島のお花見の席で明治天皇へ「酒種 桜あんぱん」が献上され、皇室御用達の栄誉を賜ったことで、あんぱんは一躍全国区の国民食へと押し上げられました。中央に八重桜の塩漬けをあしらったこの造形は、視覚的な美しさだけでなく、甘味と塩味の完璧な対比を生み出す計算された構成です。
現在でも1階店舗の奥にある工房で熟練の職人たちが種継ぎを行い、発酵の温度と湿度を厳格に管理しています。ひと口頬張った瞬間に広がる日本酒のような芳醇な吟醸香としっとりとした口どけは、一般的なドライイースト製法のパンでは決して再現できない唯一無二の魅力です。