ネット上の掲示板やSNSでは長年、「学名3回繰り返す理由」について、「名付け親が命名締め切り直前に適当に決めた」「ゴリラがあまりにゴリラらしかったから強調した」といったユニークな憶測が飛び交ってきました。
しかし、ゴリラゴリラゴリラ実在の経緯を歴史的に検証すると、そこには西洋博物学の命名優先権をめぐる熾烈なドラマが存在します。
1847年、アメリカの医師・宣教師トマス・ストーブ・サベージらが西アフリカで収集した頭蓋骨と骨格標本に基づき、この大型類人猿は新種として記載されました。当時彼らは、古代カルタゴの航海者ハンノの航海記に記されていた毛深い野蛮人の名称「ゴリライ(Gorillai)」にちなんで、チンパンジー属の一種として「Troglodytes gorilla」と命名しました。
その後、フランスの生物学者イジドール・ジョフロワ・サン=ティレールが「チンパンジーとは明らかに別属である」と主張し、1852年に独立した「Gorilla(ゴリラ属)」を設立します。さらに20世紀に入り、標本の比較研究が進んだことで、地域ごとの亜種分割が行われることになりました。
このとき、国際動物命名規約の「先取権の原則(Principle of Priority)」が発動します。最初に有効に名付けられた種小名「gorilla」は変更できず、さらに新設された属名「Gorilla」と統合され、基準となる基底亜種(原名亜種)にも同じ名を与える決まりになっていたため、不可避的に3連呼となったのです。
属名と種小名が同じになる現象を「タウトニム(tautonym / 反復名)」と呼びますが、動物分類学では極めて一般的かつ名誉あるルールであり、決して誰かの気まぐれや怠慢によって誕生したわけではありません。