噛み切れずに口の中に残り続けるタコほど、興ざめなものはありません。タコの筋肉組織は強固なコラーゲン線維が縦横に複雑に走っており、直角にぶつ切りにすると強烈な弾性応力が生じます。
タコのカルパッチョにおける切り方のコツは、線維を意図的に断裂させる「波状の削ぎ切り(波刃そぎぎり)」に尽きます。
包丁の刃をまな板に対して30度から45度程度に深く寝かせ、刃元から刃先へと前後に小刻みに揺らすように引きながら切ります。断面に微細な凹凸が形成され、ドレッシングの絡みつく表面積が平滑な断面に比べて約1.5倍以上に増大します。
厚さの基準は「2ミリから3ミリ」を死守してください。薄すぎるとタコ特有の小気味よいプリプリ感が喪失し、4ミリを超えると咀嚼時にゴムのような弾力ばかりが強調されます。吸盤の部位はコリコリとした心地よい歯ごたえを持つため、身と一緒に削ぎ落とすようにカットし、一皿の中で「身の柔らかさ」と「吸盤の小気味よさ」のコントラストを演出するのが現場のプロの手法です。