観光ガイドブックやネット上の旅行記を見ていると、「鬼の洗濯板」と「鬼の洗濯岩」という2つの呼称が混在していることに気づく読者も多いのではないでしょうか。この2つの呼び名にはどのような違いや歴史的経緯があるのでしょうか。
結論から申し上げると、地元・宮崎県や宮崎市観光協会が公式プロモーション等で使用する愛称は「鬼の洗濯板」で統一されています。一方、「鬼の洗濯岩」という呼び方は、昭和30〜40年代に巻き起こった宮崎新婚旅行ブームの際、全国メディアや旅行者が口伝えで広めた通称が定着したものとされています。現地取材において古くからの地域住民に話を伺うと、「昔から観光客は岩だの板だの思い思いに呼んでいたが、県や文化財の看板には『洗濯板』と書かれていたね」と証言します。
そもそも「洗濯板」という日用品が日本の一般家庭から姿を消して久しい現在、若い世代にとっては波状の凹凸を「板」と認識しづらく、「巨大なギザギザした岩盤」という直感的な印象から「洗濯岩」と呼んでしまうケースが増加しているという言語社会学的な側面も見逃せません。しかし、学術的な指定名称である「波状岩」が示す平坦な広がりを捉えるならば、やはり海面に水平に伸びる「板」という表現こそが、この奇勝の本質を見事に言い当てています。