ファンの間で「名探偵コナンの映画で一番面白いのはどれか」という議論になると、必ず筆頭に挙がるのが2002年公開の第6作『ベイカー街の亡霊』です。当時の興行収入は34.0億円と現在のメガヒット群には届かないものの、今なお本作が最高傑作の座を譲らない背景には、映画界の名脚本家・故・野沢尚が遺したシナリオの圧倒的な完成度があります。
本作は、新型体感シミュレーションゲーム「コクーン」の仮想空間を通じて19世紀末のロンドンへダイブするという大胆なSF設定を採用しました。その舞台装置の中で、ジャック・ザ・リッパーを追う本格ミステリーを展開させつつ、二世・三世の世襲に安住する日本社会の閉塞感、親の過度な期待に押し潰された少年の孤独、そして工藤優作とコナン(新一)の父子による無言の信頼関係を描き切りました。単なるアニメーション映画の枠を超えた人間ドラマが、公開から20年以上経過しても色褪せない人気の理由です。
この牙城に近年最も肉薄したのが、2023年の第26作『黒鉄の魚影(サブマリン)』でした。立川譲監督と脚本・櫻井武晴のタッグは、八丈島沖の海洋施設「パシフィック・ブイ」を舞台に、灰原哀の正体発覚危機というシリーズ最大のタブーに直面させました。顔認証システムの盲点という現代的なテクノロジーリスクを絡めつつ、コナンと灰原の「相棒以上の絆」をエモーショナルに描き出し、138.8億円という歴史的興行収入と絶賛のレビューを両立させました。