『病気がみえる』の完成度の高さゆえに、ネット上では「これさえ丸暗記すれば国試も臨床も完璧」「他の専門書は一切不要」といった極端な言説が散見されます。しかし、この過信には教育学・認知心理学の観点から見逃せない盲点が潜んでいます。
第一の罠は「わかった気になってしまう(流暢性の錯覚)」です。同書の図解はあまりにも洗練されているため、パラパラと眺めているだけで複雑なメカニズムを理解したような錯覚に陥りがちです。しかし、視覚的に入力された情報は、自分の手で白紙に病態関連図を描き出したり、問題演習でアウトプットしたりしなければ、長期記憶へと移行しません。図の美しさに満足し、アウトプットを怠る学習者は国試直前の模試で伸び悩む傾向があります。
第二の罠は「臨床判断の深みとエビデンスの不足」です。本書は初学者に向けた「共通認識の可視化」に特化しているため、例外的な症例や最新の臨床研究論文、詳細な薬物相互作用の解説までは網羅していません。研修医以降の実臨床や専門医試験においては、本書を足がかりにしつつ、日本循環器学会や日本消化器病学会などの各学会ガイドラインの原文、あるいはより高次の専門書へステップアップしていく姿勢が不可欠です。