世間一般で「貧血を起こした」と表現される場面の多くは、医学的には「脳貧血」に該当します。この2つは名称こそ酷似しているものの、発症メカニズムも治療アプローチも全くの別物です。
一般的な貧血(代表的なものは鉄欠乏性貧血)は、血液中のヘモグロビン濃度が低下し、血液の「質」が薄くなっている状態を指します。体全体に酸素を運ぶトラックそのものが不足しているため、慢性的な倦怠感、動悸、息切れ、爪の変形などが日常的にじわじわと続きます。診断基準も明確で、一般内科の血液検査においてヘモグロビン(Hb)値が成人男性で13g/dL未満、成人女性で12g/dL未満となった場合に診断されます。
一方の脳貧血は、血液の成分自体には何ら異常がありません。心臓から送り出されるべき血液が一時的に脳へ届かなくなり、頭蓋内の血圧がストンと落ちてしまう脳循環不全(一過性脳虚血)という「量と圧力」のトラブルです。水道管に例えるなら、貧血は「流れている水の中に栄養分が入っていない状態」、脳貧血は「蛇口をひねっても一時的に水圧が足りず、2階の部屋まで水が吸い上げられない状態」と言えます。
したがって、脳貧血の発作を起こしている人に鉄分豊富な食事やサプリメントを摂取させても、根本的な解決にはなりません。脳へ送るべき血流が下半身に滞留してしまう脳貧血の原因の核心は、血管の収縮・拡張をコントロールしている自律神経系の機能不全にあるのです。