山手線圏内の好立地に位置する専門博物館でありながら、目黒寄生虫館は今日に至るまで「入館料無料(寄付歓迎制)」という極めて珍しい運営形態を維持しています。公立の施設ではなく民間法人が運営しているにもかかわらず、なぜ無料公開が成り立っているのか、その理由には創設者の強い信念と、現代における支援の輪が深く関わっています。
同館の礎を築いたのは、医学博士の亀谷了(かめがい・さとる)氏です。戦後、日本国内で寄生虫病が蔓延していた時代、亀谷氏は私財を投じて研究施設を設立しました。「寄生虫の正しい知識を広く社会に普及させ、誰にでも開かれた学びの場にしたい」という創始者の確固たるフィランソロピー(博愛精神)から、入場料を取らない方針が定められました。現在も公益財団法人の定款にその精神が受け継がれています。
しかし、私立博物館の無償運営は決して平坦な道ではありません。展示物の維持、空調管理、標本の修復、研究活動などには年間を通じて膨大な維持管理費が発生します。とりわけ来館者が激減した時期には深刻な財政危機に直面し、運営存続をかけたクラウドファンディングが実施されました。報道発表や当時の支援記録によると、目標金額500万円に対して最終的に約5倍もの資金が集まるなど、世界的な学術拠点としての価値を惜しむファンから熱烈な支援が寄せられました。
館内には現在も電子マネー対応の募金箱が設置されており、訪れた人々が「これほどの貴重な展示を無料で維持してくれていることへの感謝」として、自発的に500円〜1,000円程度の寄付を行う姿が定着しています。無料という形態は決して余剰資金によるものではなく、創設者の遺志とそれを守ろうとする一般市民・研究コミュニティの共鳴によって奇跡的に成立している構造です。