インターネット上の掲示板やSNSでは長年、「結局彼らは付き合いたいのか、別れたいのかどっちなんだ」「英語圏の人間も意味を分からずに歌っているのではないか」という議論が絶えませんでした。この歌詞が矛盾している理由の背後には、ポップミュージック史に残るスウェーデンの天才プロデューサー、マックス・マーティン制作秘話が深く関わっています。
この楽曲を作詞・作曲したのは、ブリトニー・スピアーズやテイラー・スウィフトを筆頭に無数の全米No.1ヒットを世に送り出したマックス・マーティンと、同じくスウェーデン出身のアンドレアス・カールソンです。当時、彼らの母国語はスウェーデン語であり、英語は第二言語でした。マーティンが楽曲制作において何よりも神聖視していたのは「厳密な文法や物語の整合性」ではなく、「音節のハマり具合、母音の響きの美しさ、そしてリスナーの感情を直接揺さぶるメロディのフック」でした。
英語圏の文脈では「I want it that way」という肯定の言葉と、「君に『I want it that way』とは言ってほしくない」という否定の言葉が同じサビの着地点として配置されるのは論理的に破綻しています。モデルのクリッシー・テイゲンがTwitter(現X)で「この曲は本当に意味が分からない。彼らはお互いに距離を置きたいの?それとも一緒にいたいの?」と投稿した際、バックストリート・ボーイズの公式アカウントが「離れていても、お互いの愛をそのままで保ちたい。でも君が言うと傷つくんだ……まあ、実は僕たちもよく分かってないよ!」とユーモアを交えて返信した一幕は、ファンの間で伝説となっています。
さらに興味深いのは、当時のレコード会社(Jive Records)の動きです。重役たちは「歌詞に意味が通らない楽曲をリードシングルにするわけにはいかない」と猛反発し、英語ネイティブの作詞家を立てて歌詞を整合性のある内容に書き直させました。それが「No Goodbyes」というサビを持つ別バージョン(Alternative Version)です。その修正版では「Tell me why, I love it when I hear you say, I want it that way, No goodbyes...」と、矛盾のない綺麗なラブソングへと修正され、実際にメンバーによるスタジオ録音まで行われました。
しかし、完成したテイクを聴いたメンバーのケヴィン・リチャードソンやAJ・マクリーンらは猛反発しました。「論理的に正しく書き直されたバージョンは、ただの退屈なポップスに成り下がってしまった。マックスが最初に作ったあの響きこそが、理屈を超えて胸を締め付けるんだ」と主張。スタジオで激論を交わした末、グループは意味の通らないオリジナル版のリリースを断行しました。結果として、その判断がポップス史に刻まれる金字塔を生み出すことになったのです。