インターネットの掲示板やSNSでは、「冬タイヤとしての寿命が終わっても、夏タイヤ代わりに履き潰せば履き替え工賃が浮く」「もったいないからスリップサインが出るまで使い切る」といった書き込みが散見されます。しかし、行動経済学でいう「サンクコスト効果(もったいない精神による損失回避バイアス)」が、安全と経済性の双方で最悪の結果を招く典型例といえます。
履き潰しの危険性と理由は、単なる雨天スリップのリスクにとどまりません。第一に、高温環境におけるタイヤバースト(破裂)の危険性です。冬用の柔軟なゴムは、真夏の過熱したアスファルトの上を高速走行すると内部発熱を起こし、ゴム層が剥離する「トレッドセパレーション」を引き起こしやすくなります。
第二に、操縦応答性の極端な鈍化です。路面からの入力に対してタイヤ全体がグニャリとたわむため、緊急時の危険回避でハンドルを切っても車両の挙動がワンテンポ遅れます。回避できたはずの障害物を避けきれず、接触事故に発展するリスクが跳ね上がります。
タイヤショップの整備主任者は次のように警鐘を鳴らします。
「タイヤ交換工賃の数千円を惜しんで履き潰しを選んだ結果、雨の日の玉突き事故で数十万円の修理代や過失割合を背負うドライバーを数多く見てきました。命を乗せるパーツにおいて、誤った節約志向は最も高くつくリスクでしかありません。」