インターネット上で「桃の花 花言葉 怖い」という言説が飛び交う最大の理由は、花言葉そのものの意味ではなく、桃が古来担ってきた「あまりにも強烈な魔除け・呪術の歴史」が現代において独り歩きした結果です。
桃が「死」や「異界」のイメージと結びついた決定的な発端は、日本最古の歴史書『古事記』に記された神話にあります。亡き妻・イザナミノミコト(伊邪那美命)を追って黄泉の国(死者の世界)へ向かったイザナギノミコト(伊邪那岐命)は、変わり果てた妻の姿に驚いて逃走します。その際、追ってきた黄泉の軍勢や怪物たちに向けて投げつけ、見事に退散させた武器こそが「境内に実っていた3個の桃の実」でした。
この功績により、桃の実はイザナギノミコトから「意富加牟豆美命(オオカムヅミノミコト)」という神名を授けられ、人々を苦難から救う神霊として祀られました。死者の国から生還するための決定打となった神話的エピソードが、「黄泉の国」「悪霊退治」というおどろおどろしいワードとともに断片的に語り継がれたことで、「桃の花には何か恐ろしい裏の意味があるのではないか」という都市伝説的な誤解を生む土壌となったのです。
また、古代中国の道教思想においても、桃は「仙木(仙人の木)」とされ、悪鬼を制圧する最強の呪具として扱われてきました。鬼門(北東)に桃の木を植えたり、桃の木で作った札(桃符)を門に掲げて悪霊を威嚇したりする風習が存在します。つまり、「怖い」の正体は悪意や呪いではなく、「悪霊や邪気が恐れおののいて退散するほどの強大な神聖力」の裏返しに他なりません。