皮膚疾患の中で最も恐るべきシナリオは、単なる良性のイボやホクロだと思い込んでいた病変が、浸潤性の悪性腫瘍であった場合です。顔面は日光(紫外線B波)に恒常的に暴露されるため、皮膚悪性腫瘍の好発部位として知られています。
皮膚がんの初期症状を顔に認める場合、代表的な疾患として以下の3つが挙げられます。
第一に、日本人で最も発生頻度が高い「基底細胞がん(BCC)」です。好発部位は鼻周囲、小鼻の溝、下まぶたなど顔の中央部に集中します。初期は小さな黒いホクロのように見えますが、表面に独特の青黒い光沢(真珠様光沢)を帯び、進行すると中心部がすり鉢状に崩れて潰瘍化します。転移は極めて稀ですが、放置すると軟骨や骨などの深部組織を破壊しながら局所で無制限に浸潤します。
第二に、前がん病変である日光角化症から移行する「有棘細胞がん(SCC)」です。紫外線ダメージが蓄積した高齢者のこめかみや頬に多発し、カサカサした赤褐色の斑片から、やがて硬く隆起した角化性腫瘤へと変化し、悪臭を放つ浸出液や出血を伴うようになります。
そして最も悪性度が高く致死的なのが「悪性黒色腫(メラノーマ)」です。悪性黒色腫の見分け方には、世界的に確立された「ABCDEルール」という臨床的判断基準が存在します。
- A(Asymmetry:左右非対称性):病変の中心を通る線で二分した際、上下左右の形が合致しない。
- B(Border irregularity:境界の不正):縁が滑らかな円郭を描かず、ギザギザ、波打ち、あるいは周囲の皮膚へと滲み出している。
- C(Color variegation:色調の濃淡混在):均一な黒色ではなく、濃い黒、淡い褐色、白、青、赤褐色などが斑状に混ざり合っている。
- D(Diameter:直径の拡大):病変の最大径が6mmを超えている。
- E(Evolving:経時的増大と性状変化):数ヶ月の経過の中で、大きさ、隆起の度合い、色調が目に見えて変化し続けている。
これらの徴候のうち1つでも当てはまる病変が存在する場合、皮膚科の受診目安としては「数ヶ月待つ」猶予はなく、日本皮膚科学会認定の専門医または皮膚悪性腫瘍指導医が在籍する総合病院への受診が緊急に求められます。