au三太郎CMの歴史を語る上で、絶対に外すことができない金字塔が2015年夏に放映されたauCMソング『海の声』です。砂浜に腰を下ろし、夕暮れの海に向かって三線を爪弾きながら熱唱する浦ちゃんの姿は、CMという広告枠の境界を完全に超え、日本中を感動の渦に巻き込みました。
『海の声』は、作曲をBEGINの島袋優、作詞をCMクリエイティブディレクターの篠原誠が担当。当初はCM内でのワンシーンとして制作されたものでしたが、放映直後から「フルバージョンを聴きたい」「涙が止まらない」という問い合わせがKDDIやレコード会社へ殺到しました。フル配信がスタートするやいなや、各配信サイトで軒並み首位を独占し、ミリオンセールスを突破。同年末の日本レコード大賞優秀作品賞を受賞し、NHK紅白歌合戦への出場を果たすという、広告発の楽曲としては異例の社会現象へと昇華しました。
この名シーンの裏には、桐谷健太三線演奏にかける凄まじい執念がありました。当時のメイキング映像やロングインタビューの記録によると、桐谷はオファーを受けるまで三線に触れた経験がほぼありませんでした。しかし、「当て振り(演奏しているフリ)だけは絶対に嫌だ。自分の指で弾き、自分の心で歌わなければ浦ちゃんの想いが乙姫に届かない」と直訴し、過密スケジュールの合間を縫って指先に血豆を作りながら猛練習を重ねたといいます。
本番のレコーディングや浜辺での撮影現場では、テイクを重ねるごとに感情が昂り、譜面通りの歌唱を超えた魂の叫びのようなテイクが採用されました。この「技巧に逃げない剥き出しの人間味」こそが、デジタルの洗練に慣れきった当時の視聴者の胸に深く突き刺さった決定打でした。