スーパーの野菜売り場やレストランで目にする「ルコラ」と「ルッコラ」。両者の違いに頭を悩ませる人は多いですが、学名をEruca vesicaria(エルカ・ベシカリア、キバナスズシロ)という同一のアブラナ科一年草です。品種による差や栽培基準の違いではなく、イタリア語の原語表記「rucola」をどのようにカタカナ表記したかという、単純な言語受容の差異に起因しています。
イタリア語の標準的な発音を聞くと、語頭の「ru」にアクセントが置かれ、後続の「co」へ移行する際にわずかなタメ(促音に近い響き)が生じます。これを現地の抑揚に忠実に写し取った表現が「ルッコラ」であり、文字通りの綴りを素直にカタカナへ置き換えたものが「ルコラ」です。大手種苗メーカーのタキイ種苗やサカタのタネ、農林水産省の統計資料等でも双方が混用されてきましたが、流通現場のシェアとしては親しみやすい「ルッコラ」が全体の7割以上を占めています。
さらに消費者を混乱させるのが、輸入食材店や海外レシピで見かける多様な呼称です。各国での呼称を整理すると、以下の通り食文化の系譜が浮かび上がります。
- イタリア語:rucola(ルッコラ/ルコラ)
- フランス語:roquette(ロケット)
- イギリス英語:rocket(ロケット)
- アメリカ英語:arugula(アールグラ/アルグラ ※南イタリア方言の「aruchela」が移民経由で定着)
ここで1点、買い物の際に警戒すべき「別品種の罠」があります。それが「セルバチコ(ワイルドルッコラ)」と呼ばれるハーブです。一般的なルッコラがキバナスズシロ属の一年草で白〜淡いクリーム色の花を咲かせるのに対し、セルバチコはロボウガラシ属(Diplotaxis tenuifolia)の宿根草(多年草)で、黄色い花を咲かせます。セルバチコはルッコラに比べて野性味が強く、辛味・苦味・ゴマの風味が2〜3倍濃縮されたようなパンチを持ちます。料理のアクセントとしては秀逸ですが、サラダとして大量に生食する場合は「一般的なルッコラとは別物」と認識しておく必要があります。