多くのファンに惜しまれながらシャッターを下ろしたクリントンストリートベイキング表参道閉店理由について、当時「ブームが去って経営が悪化したのではないか」という憶測がSNSを中心に飛び交いました。しかし、商業施設の不動産事情や飲食業界の財務構造を分析すると、より根深いクリントンストリート閉店真相が浮かび上がってきます。
第一の決定打となったのは、南青山エリア特有の定期借家契約と不動産再編です。骨董通り沿いの好立地に位置していた表参道店は、オープンから約8〜10年というスパンで契約更新の節目を迎えていました。賃料水準が極めて高い同エリアにおいて、建物自体の設備老朽化やオーナー側の土地利用方針の変更が重なり、再契約に伴う賃料交渉がブランド側の採算ラインと合致しなかったことが最大の物理的要因とされています。
第二の要因は、2020年以降の外食市場の地殻変動です。原宿・表参道エリアは訪日外国人旅行者と休日の観光客に大きく依存していたため、外出自粛期間中の打撃は避けられませんでした。さらに追い討ちをかけたのが、近年の急激な円安と、小麦・乳製品・高品質メープルシロップといった主原料の輸入コスト急騰です。本場ニューヨークと同じクオリティとポーションを維持するためには、1皿2,500円〜3,000円前後の値上げを断行せざるを得ない局面が生じており、カジュアルな朝食・ブランチとしての価格許容度との間で難しい舵取りを迫られていました。
ブーム消費から脱却した後の「健全な撤退」であったという見方も有力です。ライセンスを保有していた運営企業側が、多額の更新料と原材料高リスクを負ってまで契約を延長するより、利益率の高い別業態へリソースを再配分する経営判断を下した結果が、あの突然の閉店劇の背景にありました。