現在の組織図を読み解くうえで不可欠なのが、神奈川県川崎市を本拠とする山川一家の存在です。2019年に内堀和也(山川一家三代目総長)が六代目を継承したことにより、五代目の清田次郎に続き、2代続けて山川一家の最高権力者が稲川会のトップに座ることとなりました。
稲川会直参一覧を見渡すと、執行部の要職や重要ポストには山川一家出身者、あるいは同組織と極めて近しい関係にある幹部が多数配置されています。この体制は「強固な統制と意思決定の迅速化」をもたらした一方で、他の一家や地方ブロックの古参幹部から見れば「実質的な山川一家による吸収合併ではないか」という不満の火種になりやすい構造を内包しています。
しかし、なぜこれほどの一極集中が進みながらも、実際の分裂に至らないのでしょうか。暴力団事情に詳しいジャーナリストは次のように指摘します。
「現在の地下社会において、分裂を起こすだけの資金力と人的リソースを持つ派閥は存在しません。山川一家の強みは、首都圏の優良な経済基盤を握っている点にあります。上納金の減免や直参組織への財政的支援など、カネの配分権をトップが完全に掌握しているため、不満を持つ組員がいたとしても『組織を出て独立して生き残る』という選択肢自体が経済的に成り立たないのです」
六代目体制は、伝統的な親分・子分の情愛や仁義だけでなく、高度に合理化された経済的なインセンティブ構造によって直参組織を束ねています。これが、内部の摩擦を表面化させず、一見して盤石に見える統率力を維持している種明かしと言えます。