彼女の歩みを振り返る上で欠かせないのが、春川ますみの若い頃の鮮烈な輝きです。1950年代後半、東京・有楽町の「日劇ミュージックホール」の舞台に立った彼女は、豊満なプロポーションと屈託のない笑顔で瞬く間にトップダンサー・グラマー女優として脚光を浴びました。
しかし、彼女の真骨頂は単なるセクシーアイコンにとどまらない、泥臭く力強い「生の人間」を演じきる稀有な演技力にありました。日本映画界の巨匠・今村昌平監督に見出され、映画『赤い殺意』(1964年)では過酷な運命をたくましく生き抜くヒロイン・貞子役を熱演。毎日映画コンクール主演女優賞やブルーリボン賞主演女優賞などを総なめにし、演技派女優としての地位を不動のものにしました。
さらに、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した名作『楢山節考』(1983年)では、過酷な山村の風土に根を張る女性を圧倒的なリアリティで演じ切りました。肉感的な魅力と土着的なエネルギーを併せ持った春川ますみの経歴は、日本映画の黄金期において唯一無二の光を放っています。